ちょうど10年前の新潟県中越地震(マグニチュード(M)6.8)の被害は地元だけではなかった。
ほとんどが震度3だった東京でも、思いもかけなかった「被害」が出て青くなった関係者がいた。
港区にある54階建ての超高層ビルのエレベーターを吊っているメインワイヤーが切れてしまったのだ。鋼鉄製のワイヤロープは直径1センチもある。幸い、エレベーターは非常ブレーキで止まって、大事故にはならなくてすんだ。
Mは7にも満たず、距離は250キロも離れた地震でこの「被害」。
地震学的にはこの高層ビルを予想外に揺らせたのは「長周期表面波」というゆっくり揺れる地震波だ。ほかの地震波が地球の内部を伝わってくるのと違って、これは地球の表面だけを伝わる。
普通の地震波は距離が増えると距離の3乗で小さくなっていく。これとちがって「表面波」は距離の2乗でしか小さくならない。つまり遠くに行っても普通の地震波ほどは弱くならないのだ。
この長周期表面波に注目していた地震学者かいた。岐阜大学のM先生は30年以上も前からこの地震波が超高層ビルに及ぼす影響の観測を企てていた。
日本で超高層ビルが建てられるようになったのは1964年。建物の高さが31メートルまでという建築規制が撤廃されたのだ。
東京のあちこちで建てられ始めた超高層ビルの上と下に地震計を置かせてほしいとM先生はあちこち交渉した。だがビルの所有者は地震計を置くのを嫌がり、ようやく新宿の超高層ビルで「ビル名は決して出さない」という約束で置かせてもらった。
そして1984年、長野県西部地震(M6.8)が起きた。最上階では地階の20倍以上も揺れ、しかも揺れが長く続くことが初めてわかった。
東日本大震災(2011年)のときには大阪府咲洲(さきしま)庁舎(旧WTCビル、55階建)で天井が落ちたり床に亀裂が入り防火戸が破損するなど360ヶ所もが損傷した。エレベーター4基に5人が5時間近く閉じこめられた。エレベーターを支えるワイヤロープがからまって翌日にも8基が復旧しなかった。震源から800キロも離れたところだ。
恐れられている南海トラフ地震が起きたときには東京の高層ビルの上部は振幅5メートルもの揺れになると予想している科学者もいる。そんなに揺れたら、ビルそのものは倒壊しなくても中にいる人々はコピー機やロッカーなど重い家具につぶされてしまうだろう。
超高層ビルには限らない。巨大な石油タンクや、長大な橋、新幹線の土木構造物など、振動の固有周期が長い建造物はどれも強い長周期表面波の洗礼を受けたことがない。
最近はようやく対策がとられ始めている。しかし対症療法的なものだ。そもそものビルの設計のときにどのくらいの地震波が来るか知らないまま、ゼネコンや工学者たちが設計しているのは、地震学者として、とても心配なことなのである。
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