島村英紀『夕刊フジ』 2014年11月28日(金曜)。5面。コラムその79 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

長野県北部地震 信用ならない「震度6弱」

 地震学者にとって強い違和感があるメディアの言い方がある。「長野県北部で起きた震度6弱の地震」という言い方だ。

 気象庁が発表する震度は「震度計」を設置していないところではもっと大きな震度のことがある。今回も倒壊した家が多かったところの震度は6弱よりもずっと強かった可能性が大きい。

 マグニチュード(M)が地震そのものの大きさを示す数字なのとちがって震度はそれぞれの場所の揺れ方だ。気象庁が測っていない場所での震度は分からないのである。

 先週22日夜に長野県北部で起きた強い地震では震源が浅かったために震源の近くでは局地的に強い揺れに襲われた。このため31軒の家が全壊した。Mは6.7、震源の深さは5キロとごく浅かった。

 震度計で震度が測られて発表されるようになったのは1996年以来のことだ。それまでは気象庁の職員が体感で震度を決めていた。

 じつは震度を決めることはそう単純なことではない。

 地震で地面が揺れる、その「振幅」ならいいのだろうか。

 そうではない。地面が10センチの振幅で揺れても、その揺れの周期が30秒もあるゆっくりした揺れならば、たいていの人間は揺れているとは感じない。だが振幅がたった1ミリでも、周期が0.3秒しかなければ、これは強い揺れだ、と誰でも感じるのだ。つまり地面が揺れる振幅では、人間が大きな地震だと感じるほど、素直に数字が大きくなる震度の目盛りには使えないのである。

 では「加速度」ではどうだろう。モノがゆすぶられる力に比例している加速度は、振幅よりも少しはマシだ。

 しかし加速度が150ガルでも、振動がしばらく続けば家が倒れる、つまり震度では6になる。だが300ガルの地震が来ても、ごく短時間で終わってしまえば、まず被害は出ない。このときは加速度は大きくても、震度は4どまりなのである。

 つまり震度とは、地震の揺れの加速度や、周期や、揺れが続く時間などいろいろの要素の組合せで決められるものなのだ。このために、震度計を作って、それまでの職員が体感で決めていた震度を機械観測に置き換えることはそう簡単ではなかった。気象庁は地震学者を呼んで委員会を作って何度も検討を重ねたのだった。

 気象庁の職員が決めていた時代には、もっと芸が細かいことまでやっていた。

 震度は地盤の善し悪しで違ってくる。北海道室蘭市は気象台が地盤が良いところにある。しかし町の大部分は埋め立て地のような軟弱で悪い地盤が多い。このため気象庁の震度よりも町の震度の方がいつも大きかった。

 このため気象台が気を遣って、感じた震度よりもサバを読んだ震度を「室蘭の震度」として発表していたのだ。

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