いちばん危険な研究に従事している科学者は火山学者に違いない。私が知っているだけでも何人もの火山学者が火山で命を落としている。
たとえばフランス人のクラフト夫妻は1991年に雲仙普賢岳で火砕流に巻き込まれて亡くなった。夫妻は火山の写真や映画を撮影するパイオニアで、危険な溶岩流の目の前まで行って火山の映像を記録するので有名な科学者だった。
米国西岸にあるセントヘレンズ山の1980年の噴火でも、定点観測をしていた米国のジョンストン博士が噴火で死亡した。
またパプアニューギニアのラバウルにある火山は1997年の私の滞在中に噴火したが、その数日前には私の知人であるスペインの火山学者が噴気ガスを採取するために山頂に登っていた。危ないところだった。このほか火山学者が噴火の被害を間一髪でまぬがれた例は多い。
研究の相手が火山であり、そのなかでも噴火は最大の研究テーマでもあるわけだから、どうしても噴火口の近くに行かなければならない。予知できない大噴火が目の前で起きたら犠牲になってしまうことが多いのである。
火山学者が噴火口に近づかなければいけない理由はいくつもある。噴火から出てきた火山灰や火山ガスを採取して、その成分を調べることは火山を研究するイロハのイだ。これによって9月の御嶽噴火が水蒸気爆発だったことも、11月の阿蘇山の噴火がもっと段階が上がったマグマ噴火だったことも分かった。
火山灰はこのようにたくさんのことを物語ってくれる。火山とその噴火の段階ごとに特徴があり、グリーンランドで氷河のボーリングをしたときに、1783年の浅間山の天明噴火の火山灰が見つかった。地球を半周してここまで達していたのだ。
火山学者の危険はそれだけではない。知人のオーストラリア人の火山学者は長年の研究生活で火山灰を吸い込んでじん肺になってしまった。じん肺は火山学者の職業病のようなものなのである。
学者が近づかなければいけない理由はそのほか、火山性地震を調べるための地震計やマグマの動きにともなう山体膨張を測る傾斜計の設置もある。写真やビデオの記録ももちろんである。
ところで、このような危険を冒さなくてもデータが取れる装置が最近では試みられている。
12月にはドローン(無人超小型ヘリコプター)を使った「災害対応ロボット」の実験が鹿児島・桜島で行われた。
このロボットは火口周辺を撮影するほか、ワイヤーで吊ったカゴから地表に積もった火山灰も採取する。つまり火山学者がいままで危険を冒していた観測を無人ロボットで代行しようという試みだ。
だが観測器の設置が出来るわけではない。積載カメラによる観察も専門家の眼から見れば限界がある。噴火する火口を自分の目で見てみたい、そしてサンプルを自分で見つけて取りたい、と火山学者の血が騒ぐのは、この程度のロボットでは抑えきれない衝動なのである。
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