島村英紀『夕刊フジ』 2013年7月5日(金曜)。5面。コラムその9:「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

「地震エネルギー」どこに消えた?

 日本列島を載せているプレートと海洋プレートの間でしだいに地震エネルギーがたまっていって、やがて耐えきれなくなると、海溝型の大地震が起きる。物理学者で随筆家の寺田寅彦がいう「忘れたころ」、つまり100年とか200年ごとに、こうしてマグニチュード(M)8クラスの巨大地震が繰り返してきている。

 ここまでは、よく知られていることだ。しかし、じつは計算が合わないのである。

 プレートは一定の速さで動き続けている。東北日本の東側にある日本海溝には太平洋プレートという海洋プレートが毎年10センチの速さで押してきているし、西南日本の南側ではフィリピン海プレートという別の海洋プレートが南海トラフという海溝に向かって毎年4.5センチの速さで押してきている。これらの動きは少なくとも千万年以上続いてきている。

 ところでこれらM8クラスの巨大地震が起きたとき震源断層がどのくらいの距離だけ滑ったのかということは、地震計の記録から分かる。それによれば多くの場合、数メートルなのだ。

 たとえば太平洋プレートの場合プレートの歪みが年に10センチずつたまっていく。2年で20センチ、10年で1メートル・・・。ところが、実際に巨大地震が起きてきた間隔よりもずっと短い数十年でプレートの歪みが「限界」に達してしまうはずなのだ。

 どうも計算が合わない。プレートが作っている歪み、つまり地震エネルギーは大地震として解消されるものがある一方、どこかに消えてしまう歪みがなければおかしい。

 「M8より小さい地震がたくさん起きているのだろう」って?いや、Mが1だけ違えば地震のエネルギーは約30倍も違う。Mが2違えば1000倍も違うのだ。このため、小さい地震を束にしても、M8の地震にはならないのである。

 この「消えてしまった地震のエネルギー」の大きさは、世界各地の海溝でそれぞれ違う。日本海溝ではエネルギーの60%が消え、南海トラフでは30%が消えてしまっている。繰り返し発生している十勝沖地震では1952年十勝沖地震(M8.2)の前に、どうも大地震一回分のエネルギーが抜けているようなのだ。

 他方、アリューシャン列島沿いや、南米チリの南部では、この「消えてしまったエネルギー」はほとんどない。プレートが押してきた分だけ巨大地震が起きているのだ。

 不思議なところもある。伊豆諸島から南、グアム島の先まで伸びているマリアナ海溝では、この種の巨大地震が起きたことがない。巨大地震のエネルギーは、すべて、どこかに消えてしまっているのである。

 巨大地震を起こすはずのエネルギーがどこかに消える。前回のニュージーランドでいま起きている、地震計には感じない大地震の話を思い出すだろうか。

 そうなのだ。「普通ではない地震」が巨大地震が繰り返す間にはさまっていて、巨大地震の繰り返しを左右しているのではないか、と思われはじめているのである。

この記事
このシリーズの一覧

島村英紀・科学論文以外の発表著作リストに戻る
島村英紀が書いた「地球と生き物の不思議な関係」へ
島村英紀が書いた「日本と日本以外」
島村英紀が書いた「もののあわれ」
本文目次に戻る
テーマ別エッセイ索引へ
「硬・軟」別エッセイ索引へ



SEO [PR] 住宅ローン フラワーギフト 必勝祈願 冷え対策 動画 無料レンタルサーバーSEO