メルトダウンを起こした福島第一原発の原子炉内部に核燃料は残っていなかった。
3月に発表されたミュー粒子を使った世界初の調査の結果だ。燃料は原子炉から溶け落ちてしまっていたのだ。
宇宙の彼方からやってくる宇宙線が地球の大気と衝突して次々に生まれているミュー粒子は1平方メートル当たり毎分1万個も飛んでいる。厚さ1キロメートルの岩でも通す能力を持っているから、分厚いコンクリートや金属に取り囲まれた原子炉の中を透視できる。
もし核燃料があれば、ウランなどは高密度の物質なので黒く写るはずだった。だが原子炉の中はからっぽだったのだ。
このミュー粒子を使った透視の手法は、もともと火山の内部を見るために使われはじめたものだ。マグマが地球深部から火口に上がってくる。どこにどのくらいの大きさのマグマがあるのかを研究するためにこの手法が使われている。
だが、福島の原子炉もそうだが、ミュー粒子は上や斜め上から飛んでくる。それゆえ地面から下のものは見えない。だから原子炉の底を突き抜けて下に行ってしまった核燃料は見えなかったのである。
ところで「カルデラ噴火」というものがある。「破局噴火」とも言われる巨大噴火で、過去10万年間に12回、日本で起きた。
たとえば九州南方に起きた7300年前の鬼界(きかい)カルデラ噴火では九州を中心に西日本で先史時代から縄文初期の文明が途絶えてしまった。
マグマは周囲の岩よりも軽いから浮力が生じる。カルデラ噴火を起こすマグマ溜りでは、火山の下に大量に溜まったマグマによって大きな浮力が生まれる。
そして、やがてマグマ溜りの天井部分に大きな亀裂が出来てマグマ溜まりが一挙に壊れて大噴火するのがカルデラ噴火なのである。
巨大なマグマ溜まりがあるところは火山の地下である。せっかくの期待の星、ミュー粒子も、火山の山体の地上部分の内部は見えても、地下は見えないのである。
将来は精密な「地震波トモグラフィー」という手法を使えば、この種の地下のマグマ溜りを見ることが出来るのではと思われている。
地震波トモグラフィーとは、火山地帯に地震計を数百個、比較的長期間置いて、四方八方で起きる無数の地震波を精密に観測する手法だ。大変な手間と時間を要する研究である。
カルデラ噴火が起きると、噴火や火山灰の影響で最悪は1億2000万人の死者が出るとの予想がある。日本人のほとんどが死に絶えてしまう規模だ。
この次にいつ起きるかについて定説はない。だが、ある研究によれば100年以内に起きる可能性が1%という。
低いといえば低い。しかし1%とは、政府の地震調査委員会が発表していた阪神淡路大震災(1995年)が起きた前日の地震の確率と同じなのである。可能性がないといって安心できるレベルではないのかもしれない。
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