島村英紀・現論「地球物理の観点欠く経産省の核のごみマップ」2017年9月共同通信配信で各地の新聞に掲載
『デーリー東北』2017年9月15日( 金曜)朝刊、『中国新聞』と『長崎新聞』と『熊本日日新聞』湖2017年9月16日(土曜)朝刊、『茨城新聞』と『日本海新聞』と『山口新聞』2017年9月17日(日曜)朝刊、『宮崎日日新聞』と『高知新聞』と『河北新報』と『南日本新聞』2017年9月18日(月曜)朝刊、『下野新聞』2017年9月20日(水曜)朝刊、『愛媛新聞』2017年9月21日(木曜)朝刊、『静岡新聞』2017年9月22日(金曜)朝刊、『佐賀新聞』2017年9月23日(土曜)朝刊、『信濃毎日新聞』2017年9月24日(日曜)朝刊、『京都新聞』2017年9月26日(火曜)朝刊、『西日本新聞』2017年10月20日(金曜)夕刊など。{1700字}

地球物理の観点欠く経産省の核のごみマップ
(新聞社によっては見出しが違います。たとえば信濃毎日新聞は「目を疑った核のごみマップ」、茨城新聞は「地球物理学の観点欠落」)

 核のごみを国内に埋める場所探しにつながる地図が経済産業省によって公開された。「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する科学的特性マップ」である。

 放射能は人為的に減らすことはできず、数万年かかる自然崩壊で弱まるのを待つしかない。海底や南極、宇宙に捨てることは法律上や技術上の問題があってできない。このため、原発推進の立場をとる国としては、国内の地下に埋める「地層処分」をせざるを得ない。

●方針転換

 国民の関心を引こうとかつてはモグラのキャラクターのテレビCMまであった地層処分だが、1986年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故で、日本の原子力や放射性廃棄物に対する拒否感が深まった。2007年に全国で初めて最終処分場の公募に応じた高知県東洋町は、町の内外で反対の火の手が上がり、選挙で町長は落選、撤回に至った。

 2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発の事故で、世論はさらに厳しくなり、どの地方自治体も手を上げなくなった。それゆえ国として「地方自治体待ち」の方針転換を図らざるを得なかった、その第一歩が、このマップの公表なのである。

 この地図では、処分場として好ましい範囲が緑、活断層や火山などの近くで好ましくない範囲がオレンジ色に色分けされている。

 「陸上での長距離輸送は困難なことや、廃棄物が重量物であることから、海岸線から20`を目安」にするとされている。つまり、日本全体の海岸線沿いの多くを緑色が占めている

 地球物理学者として、この図を見たときには目を疑った。

 マグニチュード(M)8の地震が想定されている静岡県の静岡・清水地域が緑色になっているなど、日本で今まで大地震が起きてきたり、これから起きることが分かったりしている地域が「緑」とされているからである。

 東日本大震災では青森県から千葉県まで広い範囲を津波が襲った。また、歴史文書には記録されているものは多くはないのでよく知られていなかったが、近年の地質学的な調査から、若狭湾など日本海沿岸にも昔、大津波が来たことが分かりつつある。

 沖合で起きる海溝型地震で大規模な津波に襲われないと保証できる沿岸地域は、地球物理学の観点からは日本のどこにもない。

●避けられぬ災害

 原発からの核のごみには、各国とも苦慮している。今のところ建設工事が始まっているのは「オンカロ」と呼ばれるフィンランドの処分場だけだ。ここでは地下400bより深いところに核のごみを埋めて、少なくとも数万年以上の間、人の目に触れないところに置こうという仕組みだ。

 フィンランドは、プレート(岩板)境界からはるかに離れており、大地震や火山はない。

 他方、日本はプレートが四つも衝突している世界でもまれなところだ。それゆえ、大地震も火山噴火も避けられず、そして活断層も多い。

 世界のM6を超える大地震の5分の1、陸上にある火山の7分の1が、面積では世界の0・25%しかない日本に集中しているのだ。フィンランドとは違って、これからも大地震や津波に襲われる場所だし、大きな火山噴火も避けられない。

 実は福島の原発の建設構想が始まったころには、日本の太平洋岸沖に太平洋プレートが押しよせてきて巨大な海溝型地震が起きることも知られていなかった。静岡県の中部電力浜岡原発が設計を始めたころにも、この近くで南海トラフ地震という巨大な海溝型地震が起きることも知らなかった。

 その後、地球物理学やプレートテクトニクスが進歩して、日本は四つのプレートが衝突している、珍しい場所だということが分かったのである。
 地震や火山噴火に関する科学には、まだまだ未解明の部分も多い。

 今回の「科学的」と称する地図には、地球物理学の知見は入っていないのだろうかと疑わざるを得ない。現在の科学の知見から見て、取り返しのつかないことを始めてしまった日本の原発政策だが、まずはこれ以上、核のごみを増やすことだけは避けなければなるまい。

この記事

●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆3:「静穏期への過信は危険 原発に地震や噴火のリスク」2017年5月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆2:「人間が起こした地震 シェールガスのリスクに目を」2016年10月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆1:「熊本地震は内陸直下型 どこでも起こる可能性」2016年5月

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