『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2002年5月17日夕刊〔No.291〕

地球物理学者の予言

 1月ほど前のことになる。太陽が沈んだ後の西の空に、5つの惑星と月が一直線に並んだ。水星、金星、火星、月、土星、木星である。

 じつは2年前の今頃は、もっと珍しいことが起きていた。太陽系にある8つの大きな惑星が、ほとんど一直線の上に並んだのだ。これには地球と月も入っている。8つがこのように並ぶというのは、次は2675年まで、つまりあと700年近くもないことだった。

 そこで、必ず登場するのが予言者だ。地震、洪水、火山噴火といった凶事を予言した。しかし2年前にも、そして先月も、巨大な天変地異は何も起きなかったことは周知の事実である。

 予言者たちの根拠は惑星が並んだことによる重力、つまり引力の影響である。

 ところが、地球物理学の計算によれば、たとえすべての惑星が一直線に並んだとしても、たとえば海の潮汐は1センチのわずか3万分の1しか上がらない。つまり予言者たちはたいへんに非科学的なのである。

 しかし、科学者たるもの、謙虚であって悪いわけはない。歴史的には、いろいろな地震の研究が行われている。

 たとえば1950年代の終わりの論文には、それまでの半世紀間に起きたマグニチュード8クラスの巨大地震のうち15個が、天王星が子午線を通過した前後1時間以内に起きたという。また1990年に出た論文は、この100年に起きた大地震は、太陽と月の両方が水平線から30度から50度の間にあるときに多いという。

 しかし、こういった説には、いずれも科学的に強力な反論がある。

 つまり私たち地球物理学者は、予言者になるには、いろいろなことを知りすぎているのである。

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