『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2003年6月24日夕刊〔No.304〕

地球物理学者の習性

 オゾンホール、地球温暖化…地球に何かがあると、人類のせいかも、と心配する悲しい習性が身についてしまった。今度もそうだ。

 うるう秒。地球の自転が遅くなっているための時計の調整で、ときどき1秒だけ、世界標準時を遅らせていく仕組みである。

 地球ができて以来、自転は遅くなる一方だった。自転にいつもブレーキをかける力があるからだ。潮の干満による海水と海底の摩擦や、地球の岩全体が太陽や月の引力で歪(ゆが)む地球潮汐(ちょうせき)である。

 うるう秒の仕組みが始まった1972年以来1999年までの27年間のうるう秒は22回。だが不思議なことに、以後4年半の間、うるう秒を入れる必要がない。いや、実は自転は30年前よりも400分の1秒だけ速くさえなっている。

 もっとも、こんなに高精度で地球の自転が計れるようになったのは、そんな昔のことではない。だから、もっと前にも、自転は全体としては遅くなりながら、ときには、わずかながら速まっていたのかもしれない。

 なぜ、強大なブレーキに抗して、こんなことが起きているのだろう。

 地球上を吹いている風の分布が変わったのか、エルニーニョのような気候変動のせいだろうか。地球深部で起きた大地震のために、地球の芯(しん)にある、月ほどの大きさがある溶けた鉄の球の形が変わったせいではないか、という先生もいる。しかし、どれも推測でしかない。

 まさか今度は人類という放蕩息子のせいではあるまい、と念じながらも、地球物理学者は首をひねっているのである。 

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