『魚眼図』(北海道新聞・文化面)、2003年8月4日夕刊〔No.305〕

地球物理学者の将来

 アフリカのY国から来た留学生のUさんが浮かない顔をしている。地球物理学を専攻する大学院生。こちらで博士号を得て、国に帰るのが目標である。

 Y国はかつては豊かだった。もともと資源がある国だから、政治や経済がちゃんとしていれば、皆が豊かになれる。エリートである大学生は、大学へ来れば無料で食事が食べられた。

 しかし、多くのアフリカの国と同じく、政治が腐敗し、経済は坂を転がり落ちるように悪化してしまった。

 大学の食事も有料になった。だが、それだけではない。学資は全額、国が貸してくれて、就職してから返せばいい仕組みだった。ところが、経済の失速で若者の失業率は50%を超え、卒業しても職がなくなってしまったのだ。

 アフリカには大地溝帯という長大な峡谷が南北に走っている。ここでアフリカ大陸は二つに割れていて、いずれは、そこに海ができるところなのだ。地球物理学のメッカになっていて、世界の科学者が研究に集まっている。

 Uさんは地元の地球物理学を支えることになる貴重な人材だ。胸をふくらませて北海道大学に留学したUさんは、一族や郷土の期待を背負って来た。

 しかし、Uさんに明るい未来はあるのだろうか。Y国にとっては、50万年先に海ができるかどうかよりは、明日、食べていけるかどうかのほうが大事なのではないだろうか。

 Uさんが北海道大学の学生食堂で食事をとっているとき、そこに故郷の大学食堂が二重写しになっているのに違いない。

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