車の整備

『テンポ「パスタイム」「私の忙中閑」』(『週刊新潮』、1998年7月16日号

 私の趣味は古い車を修理しながら使うことである。

 知らない人も多いが、車にはナマケグセがつくことがある。持ち主がモタモタする運転を続けたり、車庫に長く眠っている車にはこのクセがつく。

 ナマケグセに科学的な根拠がないわけではない。電気の接点にサビが浮いたり、低い回転を続けているとエンジンの燃焼室にカーボンがたまったりするからだ。

 車は生きものだ。風邪も引くし病気にもなる。古い車ほど病気にかかりやすいのは当たり前だが、じつは、古い車ゆえに正直にその兆候が出る理由がある。

 たとえば交差点で止まっているときのエンジンの回転数(アイドリング回転数)はエンジンの調子を示すバロメータだ。調子が悪ければ回転が下がる。しかし今の車だと、アイドリングの回転数を強制的に固定してしまう。回転が下がっても、アクセルを自動的に踏み込むようにコンピューターで制御してしまうのである。これでは、腹痛なのに無理して会社に出させるようなものだ。ある日、突然大病に倒れることにもなりかねない。

 古くて、それゆえに正直な車の調子に一喜一憂しながら整備をしてやることは、ストレスの解消にもなる。車は愛情をかければその分正直に応えてくれる。女房よりもよほど素直である。

 この趣味に命を救われたこともあった。借りた車のエンジンがだんだん力がなくなり、炎暑の中近東の砂漠でエンストした。オーバーヒートだった。ガソリンに点火する装置を調整して事なきを得たが、直せなければ僚友ともども無人の荒野でひからびていたに違いない。

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