『花時計』(読売新聞・道内社会面)、1994年9月22日夕刊〔No.32〕

留学願望


 私のところには、世界のいろいろな国々から、私の研究室への留学を希望する手紙が来る。手紙はイタリアやノルウェーなど、いわゆる 先進国からも来るが、なかでも数が多いうえに胸をうたれるのは、開発途上国や貧しい国々からの手紙である。

 まず封筒や便箋の紙がザラザラで粗末なものだ。それにタイプライターやワープロの字も、つぶれたりかすれたりしていて、読みにくいことおびただしい。

 しかし手紙の内容は真剣そのものである。自分は大学でこれこれの学位を修めた。成績はこのように優秀で、今後、ぜひ貴殿の研究室で博士課程の修行をしたい、一生懸命やる、ついてはぜひ留学生にして貰えないか、と綿々と訴える手紙なのである。

 もちろん、留学生になる場合には、それぞれのお国で費用を出して貰えるわけではない。日本の国費をあてにしているわけである。もっともこれは先進国の学生でも同じだ。

 しかし残念なことに、日本で留学生に出して上げられる金はごくわずかである。北海道大学は理学部だけでも100近くの研究室があるが、国費を出して貰える留学生は、理学部全体でも年に1人か2人にしかすぎない。

 これら貧しい国々からの切々たる手紙を読んでいると、文明開化のころ外国で学んだ日本人たちを思い出す。貧しくて遅れていた日本から外国に学びに行った知識や経験は、その後の日本の発展に限りない役目を果たしたはずである。

 いまや頼られる側になった世界に冠たる経済大国は、果たすべき責任をまっとうしているのかしら。

(紙面では500字という制約があったので削った分を復活するなど、少し加筆しました)

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