『今を読み解く』(日本経済新聞 ・朝刊、読書面)、2003年7月13日

予知難しい直下型地震 場所次第で被害甚大

 このところ地震が多い。5月末に宮城県沖で起きた地震では、新幹線の橋脚が恐ろしいほど裂けてしまったし、その2週間前に東京とその周辺を久しぶりに襲った震度4の地震など、しばらく忘れていた地震が続いている。

 しかし、私たち地震学者には、ずっと地震が起きないほうが、むしろ不思議なのである。プレートの動きによって、日本列島の地下には少しずつ地震のエネルギーが蓄えられていっているからだ。

 日本を襲う大地震には二つのタイプがある。海溝型と内陸直下型だ。海溝型は起きる場所も、起きるメカニズムも、かなり分かっている。一方、内陸直下型はメカニズムが多様なうえ、日本のどこを襲っても不思議ではない。直下型ゆえ、マグニチュードが7程度でも大被害を起こすことがある。懸念されている東海地震は海溝型、阪神淡路大震災を起こした兵庫県南部地震は内陸直下型である。

 直下型地震が次にどこを襲うか、残念ながら、現在の学問では分からない。兵庫県南部地震なみのM7クラスの地震は、日本とその周辺では毎年のように起きている。いわば、ありふれた大きさの地震が阪神という大都会を襲ったことが、死者6400名余という大被害を生んでしまった。地震と「震災」は比例しない。震災の規模は、地震がどこを襲うかで決まる。

 片山恒雄『東京大地震は必ず起きる』(文春新書、2002年)は、震災にもっとも弱いといわれる東京を地震が襲ったときの備えを防災の教科書風に説いている。家屋の対震補強やライフラインの対策など、一般の人が知っているべき内容だ。

 本書では阪神淡路大震災で「日本の橋やビルが地震で惨めに壊れるとは思えない」といった安全神話が崩れたと指摘。著者自身、その1年前に起きたカリフォルニアの大地震では「『日本の橋がこんな壊れ方をすることはありません』とテレビで言っていた。思い出すだけで冷や汗が出てくる」という。では、何を根拠にそう判断していたのか、専門の地震工学で何が分かっていて、何が分かっていないのかも書いてほしかった。

 今年は関東大震災から80年。15万人にものぼる死者行方不明という日本の震災史上最大の被害を生んだ。

 武村雅之『関東大震災 大東京圏の揺れを知る』(鹿島出版会、2003年)は労作である。地震についての古い資料を丹念に調べて、いままで知られていなかった関東地震の局所的な揺れを検証した。たとえば、東京・神田の神保町の交差点を境にして、東と西では震度にして1から2も違った。これが家屋の倒壊率の大差になっている。

 そして、この違いが、2万年前の氷河期から東京の地盤が作られてきた歴史と、江戸幕府による川の改修が原因だということを明らかにした。軟弱な地盤の上に作られた住宅密集地という大都会の危険は、現代まで続いている。

 伊藤和明『地震と噴火の日本史』(岩波新書、2002年)はジャーナリストによる各地の被害の概観である。地震や火山の被害が、その地域の特性にどう左右されるか、なにを教訓にすべきかを説いている。自然現象はいつも同じものが繰り返すわけではないし、文明とともに災害も変化していくという視点が弱いのはやや残念だが、災害に備えるために過去を知ることは、もちろん大切である。

 阪神淡路大震災の翌年起きた同じ大きさの地震、鳥取県西部地震は被害が限られていたから、この地震を憶えている人は少ないだろう。宮城沖の地震では震源が海底にあった準直下型なのに震度6弱を記録した。もしこの地震が直下型で都会を襲っていたら、あのくらいの被害ではすまなかったはずだ。

 地球が気まぐれに送ってくる地震というメッセージから、「震災」への警告を読みとれるかどうか、私たちの知恵が問われているのだろう。

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