島村英紀『夕刊フジ』 2015年9月25日(金曜)。5面。コラムその121 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

経験と勘に頼るばかりの噴火警戒レベル
「夕刊フジ」公式ホームページの題は「経験と勘に頼るばかりの噴火警戒レベル 規模や時期の正確な予知できず」

 9 月14日、熊本県の阿蘇山が噴火した。最初は灰色、やがて真っ黒な噴煙が2000メートル上空まで立ち上った。火口からは大きな噴石が飛び、降灰は約60キロメートル離れた福岡県筑後市まで到達した。熊本空港も一時閉鎖になった。

 噴火したのは中岳第1火口。昨年11月にもマグマ水蒸気爆発をして以後、小噴火が続いていた。マグマ水蒸気爆発とは、昨年9月に戦後最大の火山災害を引き起こした御嶽山の水蒸気爆発の噴火よりもさらにステージが上がった噴火だ。

 気象庁はこの阿蘇の噴火を見て噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げた。御嶽山が噴火したあと1を3に、また今年5月に口之永良部島が噴火したあと3を5に引き上げたのと同じだ。

 噴火警報レベルは「これから噴火の危険があるから注意しなさい」というもののはずだが、またもや追認になってしまった。噴火警報レベルは科学的な基準ではなく、あくまで経験と勘によるものだから、まだ精度が十分ではないのだ。

 阿蘇には、広大な平原が拡がっている。450平方キロメートルもあるこの平原は阿蘇火山が過去に大噴火して作ったものだ。現在は、その中をJR豊肥本線と南阿蘇鉄道が走っている。

 巨大な鍋の形をしているこの大平原は、かつてカルデラ噴火という巨大な噴火をしたときに、大量の地下のマグマが出てきて作った。出てきた噴出物の量は富士山全部にも相当するほどだった。

 この噴火は約9万年前のことだった。噴火から出た火砕流は九州の北半分を襲っただけではなく、瀬戸内海を超えて中国地方にまで達した。火砕流は高温の火山ガスや巻きこんだ空気が混じっているので軽く、海を越えることも珍しくはない。この噴火は過去に知られている日本の噴火では最大のものだった。

 じつは阿蘇は過去に4回もカルデラ噴火をした。大きな噴火では火山灰は北海道にまで積もった。

 阿蘇はこのように過去たびたび大噴火をしてきたので、西日本では最初の火山観測が1927年から始まっている。その年に京都大学理学部の火山研究施設(現地球熱学研究施設)が、その後1931年に気象庁(当時は中央気象台)の阿蘇火山観測所(現阿蘇山測候所)が作られた。日本でもっとも監視の目が行き届いているはずの火山なのだ。しかし1953年に6人、1958年にも12人、1979年にも3人が死亡している。

 このところ阿蘇の火山活動が盛んになっていることは分かっていた。だが、今回の噴火を含めて噴火の規模や時期の正確な予知にはまだ遠い。

 まして、カルデラ噴火のような大規模な噴火の前に、いつ、どんな前兆が出るのか、現在の学問ではまだなにも知られていない。

 佐賀県にある玄海原発まで阿蘇から120キロメートルしかない。2013年から施行された原発の新基準で、電力会社は160キロメートル圏の火山活動の影響を想定することが義務づけられた。火山国日本では、どの原発も圏内に火山がある。

 大きな噴火があれば心配なことは多い。

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