島村英紀『夕刊フジ』 2013年8月9日(金曜)。5面。コラムその14:「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

「惑星直列」で天変地異は起こる?予言者たちが「凶事の前兆」

 近頃、夜空の星を見たことがあるだろうか。都市部に住む本紙の読者は、まず、見たことがないだろう。世界中で都市への人口集中が続いていて、都市部の人口は先進国では2010年にすでに70〜80%、2050年には90%にもなる予想になっている。日本も例外ではない。

 夜空の星を見る人は昔よりもずっと減ったが、天体では予言者を張り切らせる「事件」が続いている。

 去る7月下旬の明け方、東の空の低いところで火星と木星が接近していて、双眼鏡の狭い視野の中に二つが揃って見えるほどだった。またそのすぐ近くに水星も見えた。つまり太陽系の3つの惑星が、ごく近くに接近しているのが見えたのだ。

 この前、6月には太陽が沈んだ後の西の空に、上から順に水星、金星、木星がほぼ直線状に並んで見えた。

 これら惑星が近づいて見える現象には「惑星直列」という名前がついている。これらの惑星が宇宙空間に直列に並んでいるという意味だ。予言者の間やSFなどの小説の世界では有名な言葉だが、じつは天文学の用語ではない。

 とても目立つ不思議な現象だから、この現象が起きるときには天変地異が起きるのではないか、という予言が、しばしば行われてきた。地震、洪水、火山噴火、さらには人類滅亡といった凶事である。有名なものにノストラダムスの予言がある。

 こういった惑星の運動そのものは地震の予知とはちがって、古典物理学を使えば、正確に未来を計算できる。たとえば2015年10月26日には金星と木星が大接近することが分かっている。惑星では最も明るい金星と次に明るい木星が地球から見る角度にして1度あまりまで近づくうえに火星もその近くまで来る。ただし、最接近は日本時間で13時頃だから、夜にはもう少し開いてしまっている。

 また2161年に大規模な「惑星直列」が起きることも計算できているのである。

 ところで予言者たちが予言する根拠は惑星が並んだことによる引力の影響で地球が歪むはずだということである。

 だが、地球物理学の計算によれば、たとえすべての惑星が一直線に並んだとしても、その影響はあまりに小さい。

 たとえば海の満ち干は太陽や月の引力で起きる。その振幅は、場所によるが数十センチから数メートルほどだ。

 しかし、「惑星直列」では海は1センチのわずか3万分の1しか上がらないのだ。太陽や月の引力の何十万分の1よりも小さい。これでは、たとえ大地震のエネルギーが臨界状態に近いところにあったとしても、「引き金」さえ引けない大きさなのである。

 じつは10年あまり前にも 夕方の西の空に、5つの惑星と月が一直線に並んだことがある。このときは水星、金星、火星、月、土星、木星が並んだ。

 このときには世界中で多くの予言者たちが凶事を占っていた。しかし、なにごとも起きなかったのであった。

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