島村英紀『夕刊フジ』 2017年8月25日(金曜)。4面。コラムその212「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

人類滅亡のときに備えて
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「人類滅亡のときに備えて開設された“図書館” 世界のあらゆる文献データを保管」

 人類が滅亡するときのことを考えたことがあるだろうか。

 壊滅的な人為災害や自然災害が起きても重要なものを亡失から守れるよう、北極圏の孤島で「デジタル大使館」という名の新しい図書館が開設された。

 ここは大西洋の北緯79度にあるスバールバル諸島。北極まで1000キロあまりしかない。私が行ったのは夏だったが、氷河に囲まれて永久凍土に覆われていた。法的にはノルウェー領土だが、日本も批准しているスバールバル条約があって法制度や行政機構は本土と違う。誰でも査証なしに行けるし、住み着けるところだ。

 この図書館は、停電のときでも内部の温度は氷点下に保たれ、データは何百年でも保全される。かつての炭鉱の跡を利用した地下150メートルの深さにある。核攻撃にも耐えられる深さだ。

 この図書館は歴史的な文書や文学作品から学術論文まで、世界のあらゆる文献のデータを集める。

 データは不正なアクセスや改ざんが出来ないよう、ネットワークには接続されていない。

 集められた文献や映像、写真は、特殊なコンピューターコードに変換されて感光フィルムに記録され、リールに巻き付けて貯蔵庫で保管される。電子的な手段を使わなくて保管するのは、サイバー攻撃から確実に守るためだ。

 顧客は特製スキャナーを使ってデータを読み出せる。それさえ働かないときは、デジタルカメラとパソコンがあれば、フィルムからデータを復旧できる「災害復旧オプション」も用意されている。

 まだ始まったばかりの図書館だが、各国の政府機関や企業、個人などに図書館の利用を呼びかけている。

 じつは、ここスバールバル諸島には2008年、やはり人類滅亡に備えた種子貯蔵庫も開設されている。壊滅的な災害が起きても重要な作物を守れるよう、世界のほぼ全ての国と地域の88万種、5億5600万個の種子が、常時、氷点下18度で保管されている。

 種子を預け入れた国と地域がその管理活用権を持つ。2015年にはシリアの科学者がここに保存されていた種子を使って、内戦で失われた種を復活させた。

 スバールバル諸島はどのプレート境界からも遠いので、地震も起きないし火山もない。また42カ国が非武装を宣言している。図書館にも、種子保存にも地球上で最も安全な場所であることは間違いがない。

 ところで日本では、7月、核のゴミを国内に捨てるマップが経済産業省によってはじめて公開された。「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する科学的特性マップ」というものだ。

 だが、世界に冠たる地震国・火山国である日本は4つものプレートが衝突している境界にある。

 もし漏れたら多くの厄災をもたらす核のゴミはもちろん、文書や種子の保管にも、もっとも適していない場所なのだと科学者としては言わざるをえない。「地域の科学的特性を国から提示する」このマップには、地球物理学の知見は入っていないのであろうか。

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