島村英紀『夕刊フジ』 2021年5月14日(金曜)。4面。コラムその396「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

不安高まる伊豆半島東方沖の群発地震
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「不安高まる伊豆半島東方沖の群発地震 5時間で11回、回数は減ったがまだ続く」
 

 首都圏ではほとんど報じられなかったが、伊豆半島の東沖で、また群発地震が始まっている。

 今回は東海岸中部にある東伊豆町で4月21日夜から22日未明にかけての5時間で震度1以上の地震が11回起きた。大きなものは震度3だった。群発地震の回数は減ったが、まだ続いている。

 震源はいずれも東伊豆町の沖合で、伊豆大島との中間、つまり1978年に起きた伊豆大島近海地震の震源に近い。伊豆大島近海地震はマグニチュード(M)7.0、死者23人を生んだ地震だ。土砂崩れが各地で起きて死者を増やした。伊豆大島近海地震のような地震がまた起きるのではないか、と不安が高まっている。

 伊豆半島の被害は伊豆大島よりずっと多かった。それは伊豆半島は日本に最後にくっついた島で、全体が火山島だからだ。地盤が急峻で崩れやすい。

 伊豆半島の東の沖にはよく群発地震が起きる。数年おき、ときには毎年のように起きてきている。この20年間に群発地震は37回も起きた。

 観光シーズンをねらったように地震が起きることも珍しくはない。観光に生きる地元にとっては疫病神だ。以前、群発地震から大きな地震へつながるとの自説を提唱した地震学者のI博士が地元の旅館から宿泊を断られたこともある。疫病神の一味だと思われたに違いない。

 伊豆半島の東部からその沖の海中にかけての一帯には「伊豆東部火山群」といわれる小さな火山がたくさんある。それらは「単成(たんせい)火山」というもので、富士山のように噴火を繰り返して層状に高さが高くなっていくのではなく、たった一回だけの噴火でできた火山である。これらの火山ができるとき、群発地震が起きるのが普通だ。

 陸上にできることもある。伊東市にある大室(おおむろ)山(標高580メートル)も典型的な単成火山だ。約4000年前に作られ「甘食」そっくりの形(平べったい円錐形)をしている。

 1989年の伊東市の沖で起きた手石海丘の噴火でも、激しい群発地震とともに火山性の微動が続き、火山が新たに出てきた。

 しかし、火山の噴火は専門家でも予知できないほど突然に起きることがある。手石海丘の噴火はいきなり起きて、危うく海上保安庁の観測船「拓洋」を吹き飛ばすところだった。「拓洋」は海底の測量中だった。

 この事件をきっかけに、海上保安庁は無人観測艇「まんぼう」を開発した。これなら人的被害は避けられる。「まんぼう」は長さ10メートル、5トンの大きさで、測深儀や採水器を備える。

 フィリピン海プレートとユーラシアプレートの二つのプレートの衝突による火山帯は富士山から南へ1000キロ以上も続いている。小笠原の西之島の新島も、この同じ火山帯に属する。手石海丘も伊豆大島も三宅島も八丈島も、この火山帯に属する火山なのである。

 かつて作られた単成火山はいくつかずつ列状に並んでいて、次々に作られていったことが分かっている。いつかは分からないが、いずれは群発地震をともなう噴火が起きて、単成火山が生まれるのに違いない。

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