島村英紀『夕刊フジ』 2023年1月27日(金曜)。4面。コラムその478「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 


阪神淡路大震災から28年。通電火災の恐ろしさ

『夕刊フジ』公式ホームページの題は「阪神淡路大震災から28年、「通電火災」の恐ろしさ 地震後9日目の出火も火災保険は一件も支払われず…裁判になったケースも」

  阪神淡路大震災から28年がたった。記憶が薄れていく中で、忘れてはいけないことがある。通電火災の補償だ。

 阪神淡路大震災では出火件数285件のうち6割が電気火災だった。

 当日の出火は205件といちばん多かった。しかし当日ではなくて1日後のものが21件、さらに2日目以降9日目までの出火が58件もあった。

 避難して人がいなくなった家屋から出火するので発見が遅れ、初期消火が出来ずに火災が拡大することが多い。

 あとからの出火の多くは原因不明とされている。だが「通電火災」もその中にかなり含まれていたと考えられている。米国でも通電火災が地震のあとの多くの火災の原因になっている。

 地震後、電力会社は一刻も早く復旧しようとする。そして住民が住んでいるいないにかかわらず、電力会社は区域ごとに一斉に通電する。

 電気を流したときに、スイッチが入ったままだった電気器具や、壊れたり押しつぶされていたストーブやレンジや、傷ついた電気配線から出火することがある。これが「通電火災」なのだ。

 阪神淡路大震災では水道管が破損して水は出ず、火はその後何日も燃え続けた。燃えた総面積は約66万平方メートルに達し、火災で被災した世帯は9300以上にもなった。

 2011年の東日本大震災で発生した地震火災でも主な原因となったのは電気関係の出火で、7割近くに達した。

 阪神淡路大震災では地震後9日目の出火もあったのに、火災保険は一件も支払われなかった。裁判になったケースもあった。保険加入者側の敗訴という判決だった。

 「何日もたったあとでの原因不明の出火なのに火災保険を支払わないのは納得がいかない」といった不満が残った。

 保険会社には「地震免責約款」があって「火災保険では、地震を原因とする火災による損害や、地震により延焼・拡大した損害は補償されません」とある。これを盾に取ったのだ。虫眼鏡を使わないと読めないような小さい字で書いてある。

 火災保険ではなくて地震保険も入りなさいということだろう。しかし地震保険は損害額のせいぜい半分しか出ない。地震保険に入っている人はまだ多くはないが、火災保険に加入している人は全国どこでもずっと多い。火災保険には問題があることをよく知っておくべきなのであろう。

 近年では「感震ブレーカー」という装置を売っている。感震ブレーカーは一定以上の揺れを感知したら、ブレーカーの電気を自動的に遮断してくれる。感震ブレーカーには内蔵型や後付け型など複数の種類があるが、数千円程度で取り付けられる簡易タイプもある。

 なお、感震ブレーカーの設置には盲点もある。夜間に備えて足元灯や充電式の懐中電灯などの照明器具の電源も切られてしまうことだ。

 もちろん普段からストーブなどの近くに燃えるものを置かないことも大切なことだ。

 大地震は、いつ、どこで起きるか分からない。阪神淡路大震災の教訓を忘れず、有事に備えておくことが.必要である。


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