島村英紀『夕刊フジ』 2014年5月9日(金曜)。5面。コラムその50 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

事件・事故捜査に役立つ地震計
『夕刊フジ』公式ホームページでの副題は「”地面の振動”記録計でもある」

 2013年2月15日の朝9時すぎ(現地時間)、ロシア西南部の都市チェリャビンスクに大きな隕石が落ちた。
 
 この隕石は広島に落とされた原爆の30倍ものエネルギーを放出した。衝撃波で東京都の面積の7倍もの範囲で4000棟以上の建物が壊れ、1500人もが重軽傷を負った。
 
 隕石は太陽より明るい光の玉になって近くの湖に飛び込んだ。
 
 隕石は、いつ、どこに落ちるかは分からないし、あまりに瞬間的なので一昔前だったら落下をカメラでとらえることは不可能だった。
 
 しかしチェリャビンスクの隕石の落下はいくつものドライブレコーダーで鮮明にとらえられて、世界のテレビやインターネットで配信された。初めてのことだ。

 ドライブレコーダーとは自動車の前方を常時監視する車載の動画カメラで、車が事故を起こしたり、またはスイッチを操作することで、ある事件の前後の記録を残すことができる。日本でもタクシーやバスが多く備えるなど普及が進んでいる。

 いくつものドライブレコーダーの映像のおかげで、隕石がどういう軌跡をたどって地球大気に突入したか、どう分裂してどこに落ちたかが正確に記録された。

 もちろん、これはドライブレコーダーの本来の使い方ではない、だが惑星科学に貴重なデータを提供してくれた。

 ところで地震計も、本来の使い方ではない用途に「役立つ」ことがある。

 1985年に日航ジャンボ機が群馬県上野村の御巣鷹の尾根に落ちたときは、いつ落ちたのかを警察が知るために地震計の記録の提供を求められた。

 飛行機の墜落だけではない。花火工場の爆発。大規模な雪崩。地滑り。自衛隊基地での燃料タンクの爆発。これらの事件も近くの地震計に捉えられていた。

 警察だけではなくて、事件の解明にあたる専門家に地震計の記録を提供したことも多い。

 地震計の感度は高い。人が歩く振動は百メートルも先から感じることができるし、列車ならば数キロ先でも検知する。しかも百分の一秒単位で正確な時刻も分かるようになっている。

 つまり日本全国に置いてあって気象庁や大学などが日夜動かしている地震計は高感度の「地面の振動」記録計でもあるのだ。

 日本だけではない。2001年の9.11事件で米国ニューヨークの世界貿易センタービル2棟にジェット旅客機が突っ込んだとき、そしてそれらのビルが崩壊したときの振動も地震計に記録されていた。

 現場の30キロほど北に米国コロンビア大学が持つ地震観測所があり、そこの地震計が記録していたものだ。

 それぞれの「振動」のマグニチュード(M)も地震計の記録から計算された。ジェット機の衝突そのものはM0.9 と M0.7だった。最大の振動は第2ビルの崩壊でM2.3、第1ビルの崩壊はM2.1、8時間後に連鎖的に崩壊した第7ビルはM0.6 だった。

 いずれも地震の大きさとしてはごく小さいものだ。しかしこれらの振動を地震計が記録していたときには多くの人命が失われていたのである。

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