島村英紀『夕刊フジ』 2015年1月9日(金曜)。5面。コラムその84 「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」

「崩壊危険」迫るダビデ像
(「夕刊フジ」の公式ホームページでの題は”「崩壊危険」迫るミケランジェロの傑作ダビデ像”)

 ルネサンスの巨匠、ミケランジェロの傑作の彫刻が地震で崩壊するのではないかと恐れられている。

 イタリア中部フィレンツェ一帯で、昨年12月下旬から群発地震が続いている。多いときは3日間で250回を超えた。大きめの地震では学校や美術館が閉鎖され、人々は家から通りに逃げ出した。

 いまのところ最大の地震のマグニチュード(M)は4.1だが、もっと大きな地震が来るかもしれない。そのときにはこの大理石の彫刻がもたないのではないかと心配されているのだ。

 この作品はミケランジェロの代表作、ダビデ像。古代イスラエルの王ダビデをモチーフとした裸像で高さ5メートルあまり、重さ6トンもある。旧約聖書の登場人物ダビデが巨人ゴリアテとの戦いで、岩石を投げつけようと狙いを定めている場面を表現している。

 ミケランジェロが1501年から3年がかりで制作したこの大作は、二本の足首で全体の重量を支えている立像だが、その足首部分に微小なヒビ割れがあって、かねてから崩壊の危険が指摘されていた。

 このヒビはミケランジェロがこの彫刻を作りはじめるまで材料の大理石が40年も放置されていたためなのか、あるいは完成後300年以上ものあいだフィレンツェ市庁舎があるヴェッキオ宮殿の前に風雨にさらされて屋外展示されていたためなのかはわかっていない。

 彫刻は1873年になってフィレンツェ市のアカデミア美術館の屋内に移された。いまダビデ像は年間125万人を超える観光客が訪れる観光の目玉になっている。

 製作500年後の2004年になって、ヒビ割れ部分に接着剤をしみ込ませて修復したが、決して十分ではなかった。

 そもそも6トンもあるこの巨大な彫刻の重量を細い足首で支えているものだから、地震にはとても弱い構造なのだ。じつは屋外展示の間に5度ほど傾いてしまった。もし傾きが15度にもなると足首が折れて自重で倒れてしまうという計算もある。

 イタリアはヨーロッパでは珍しく地震が多いところだ。200キロあまり南東にあるラクイラでは2009年に大地震があり、309人が死亡した。2012年に起きたイタリア北部の地震など二つの地震でも計17人が犠牲になった。なお、ラクイラの大地震は群発地震が続いた後に来たものだ。

 地震対策のため、彫刻が乗る台座の免震工事が計画されているが、邦貨にして2900万円が必要だといわれている。同じような免震工事は米国ロサンゼルス市のゲッティ美術館で行われ、古典様式の柱を支えている。

 だがミケランジェロの彫刻を守るだけでは十分ではない。アカデミア美術館も、同じくフィレンツェにある有名なウフィツイ美術館も耐震性が高くはないことが指摘されている。台座だけではなく、地震で建物が倒壊したり天井が崩れてこないようにする大規模な耐震工事はまだまだなのだ。

 さて、これらの工事が次の大地震に間に合うものかどうか。世界が固唾を呑んで見守っているのである。

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