島村英紀『夕刊フジ』 2017年4月7日(金曜)。4面。コラムその193「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」 

大惨事を生む水蒸気爆発
『夕刊フジ』公式ホームページの題は「大惨事を生む水蒸気爆発 御嶽山やイタリア・エトナ山で被害」

 この3月に、また火山で死にかかった。英国の公共放送、BBCの取材チーム。イタリア・シチリア島にある欧州最大の活火山エトナ(標高3329メートル)でのことだ。

 エトナはイタリアにある3つの活火山ではいちばん高い火山で、2番目に高いヴェスヴィオ山の3倍近くもある。富士山と同じく、世界遺産だ。アルプスを除いてイタリアでは最も高い山である。

 なお、ヴェスヴィオ山は噴火でローマ時代のポンペイなどを埋めたことで有名である。

 エトナ山は過去数週間で活動が活発化していたので、取材班が登山していた。前兆もなく、いきなりこの事件が起きたのであった。このチームによって、すさまじい画像が撮られている。

 この事件で、飛んできた岩石や溶岩に当たって10人が負傷した。6人が病院に搬送されたが、全員、軽いやけどや切り傷、打撲などですんだ。

 噴火としては小規模のもので、その意味では幸いだった。一種の水蒸気爆発が起きたもので、溶岩と山の表面の間に溜まっていた水が水蒸気として噴出したために起きたものだと思われている。

 水蒸気爆発とは、2014年に戦後最大の犠牲者を生んでしまった御嶽山(長野・岐阜県境、標高3067 メートル)の噴火と同じタイプだ。

 御嶽山では新たなマグマは上がって来ずに、昔噴出した火山灰や噴石を吹き飛ばしただけだった。火砕流も出たが、このときは低温で、木や森を焼くことはなかった。それでも、これだけの被害が出てしまったのだ。

 「水蒸気」爆発というと、まるでヤカンから出る湯気のように威力のないものに聞こえるかもしれないが、そうではない。

 液体の水は1グラムで1立方センチの体積を占めるが、これが100℃になると気体になって約1700立方センチの体積にも膨張する。まわりに溶けた溶岩があるなど、もっと温度が高いと4000立方センチ以上と、さらに体積が増える。閉じた空間では大変な圧力になって、噴石や溶岩を吹き飛ばしてしまうのだ。

 かつて日本で起きて大きな被害を生んだ水蒸気爆発は、1888年の福島・会津磐梯山(標高1816メートル)の噴火だ。いまでも、空から見ると磐梯山の山頂から北側には息をのむような巨大な山体崩壊の跡が拡がっている。

 このときは、火山の内部で水蒸気爆発が起き、山体崩壊を引き起こした。この大規模な崩壊で約500人もの死者を生んだ。また、長瀬川とその支流がせき止められ、桧原湖、小野川湖、秋元湖、五色沼など、大小さまざまな湖沼が作られた。磐梯山の山の形も大幅に変わってしまった。

 今回のイタリアでも、岩や溶岩を吹き飛ばした。もちろん、大きなものに当たれば即死である。

 つまり水蒸気爆発は、その名前の優しさとは裏腹に、とてつもない威力になるのだ。

磐梯山の写真は2013年1月、島村英紀撮影。画面の右側が北になる。成田・札幌間の定期航空機から


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